睡眠時無呼吸症候群の発見の手がかりは、”いびき”です。多くの患者さんは、昔からいびきはかいていたが、最近それが激しくなった、息が止まると言われるようになった、昼間の眠気で困るようになった、などと言われます。
こちらのページでは、いびきから無呼吸、そして検査・治療について、順をおってご説明します。
いびきについて
いびきとは
いびきとは、睡眠中にノドが狭くなり、空気が通るときノドが振動して音が鳴るものです。右の図で赤の○で囲まれた部分です。
なぜ眠るといびきをかくか
ノドは周囲の筋肉でささえられています。眠るとこの筋肉の働きが弱まり、とくに息を吸ったときに吸い寄せられて狭くなります。仰向けに寝ることで、舌や顎が落ち込むことも関係しています。
どのような人がいびきをかきやすいか
肥満(ノドの周囲や舌に脂肪が沈着)、アゴが小さい・ひっ込んでいる、扁桃腺やアデノイドが大きい、鼻づまりがある場合などが主な原因です。
いびきと無呼吸の関係は
いびきはノドが振動している状態ですが、ノドがさらに狭くなると、息を吸うときに気道の壁が吸い寄せられて閉じてしまい、息が吸えない状態になることがあります。
これが無呼吸(閉塞型)です。それが頻繁に起こり、様々な症状が引き起こされるのが睡眠時無呼吸症候群です。以前からいびきをかいていた人が、肥りだしてある時点から無呼吸を伴うことが多いようです。
無呼吸のいびきは普通のいびきとどう違うか
無呼吸を伴ういびきは、いびきがしばらく止まり(平均30秒、長いときは2分以上)、その後あえぐような激しい息、またはいびきで呼吸が再開するのが特徴です。
※ 下の画像をクリックすると、いびきの音を聞くことができます。
無呼吸を伴ういびき
低呼吸を伴ういびき
睡眠時無呼吸症候群とは
無呼吸が頻繁に(1時間に5回以上)起こり、昼間の眠気など様々な症状が引き起こされるのが睡眠時無呼吸症候群です。
呼吸が弱くなる低呼吸も無呼吸と同様の症状を起こすといわれています。
自覚症状は
無呼吸がおこるとその度に、覚醒反応といってごく短時間の目覚めが起こります。その結果窒息死は起こりませんが、その代わり睡眠はとぎれとぎれの質の悪いものとなります。
そのため、朝起きたとき頭が重く、昼間も眠気が強く、集中力がなくなります。交通事故の危険性も数倍高くなることが報告されています。単なる寝不足と異なる点は、寝つきは非常に良い、長い時間眠っても熟眠感がないことなどです。
その他の症状として、夜間の尿量・回数が多くなること、夜間発汗が多いこと、寝相が悪いこと、性欲が低下することなどがしばしば見られます。
合併症は
無呼吸のため酸欠状態になり、心臓や血管系に負担がかかり、高血圧、心筋梗塞、脳卒中などになりやくなります。無呼吸回数が1時間に20回以上の場合、5年間放置すると十数%の人がこれらの合併症で危険なことになるというデータがあります。
これらの合併症には無呼吸と肥満の両方の要因が関係しています。最近高血圧との関係が明確になりつつあります。
いびき・無呼吸の検査
いびき・無呼吸の検査方法としては、精密な睡眠ポリグラフと、簡易検査とがあります。それぞれ一長一短があります。睡眠ポリグラフは病院でおこなう検査で、睡眠と呼吸の両方を評価します。必要な情報がすべて得られますが、病院に泊まる必要があり、環境が自宅と異なることで影響を受ける可能性があります。
簡易検査は自宅で日常と同じ環境で検査できるのが利点ですが、睡眠の質などの情報が得られません。日中の眠気がある場合は、睡眠の質についての情報が必要であり、睡眠ポリグラフを受けることが望ましいと考えられます。また簡易検査は、治療中に繰り返して効果を評価する方法として適しています。
いびき・無呼吸の治療
まず無呼吸をなくすことが大切で、重症例ではCPAP、中等症以下では歯科装具が一般的です。
鼻CPAP療法
(しくみ) 鼻マスクから空気を送りこみ、ノドの内側から膨らませて、息を吸おうとするときにノドがひしゃげるのを防ぐ方法です(右図B)。
(有効性) この方法はほとんど100%の患者さんで有効であり、重症の患者さんでも健康な人と全く同様の快適な生活が送れるようになり、虚血性心臓病や脳血管障害を防ぐことができます。また患者さんの多くは、ぐっすり眠れて、昼間の眠気がとれ、集中力・意欲が高まることに驚かれます。その効果を“何十年ぶりかでグッスリ眠れました”、と表現をされる方もいます。
歯科装具療法
(しくみ) 歯科装具はボクシングで使うマウスピースのようなもので、下顎を前方に数mm突き出してかみ合わすようにするものです。これにより咽頭部が広がり、息の通りがよくなります。いびきも軽くなります。
(有効性) 鼻CPAPについで有効なのがこの方法です。適応は一般的には中等症以下の睡眠時無呼吸症候群またはいびき症とされていますが、重症例でも鼻CPAPに劣らないほどの効果がある場合があり当院での有効率は約90%でした。
当院での睡眠呼吸障害の診療
当院の睡眠呼吸障害専門外来(旧いびき外来)は1998年に開設され、開設後多数の患者さんが受診されて、検査・治療を受けられています。
しかし、最近は社会情勢の影響や、働き盛りで多忙な30~50歳の患者さんが多いこともあり、忙しくて検査・治療を受けられないとのご意見を多数頂くようになりました。
そこで、睡眠呼吸障害の診療システムの再構築を重ね、検査入院の場合は、夕方に入院、翌日早朝に退院とし、勤務されている方でも仕事を休まずに検査を受けられるようにしました。
また、治療入院についてもクリティカルパスを導入し、単に鼻CPAP療法、歯科装具等を導入するだけでなく、食事指導、運動指導等を含めた総合的診療を効率よくおこなえるようシステムを整備しております。