心療内科ってなぁに? 第58回 “脳”にも限界がある②

想像の翼は、どこまでも羽ばたくことができます。頭の中では、ニューヨークまでひとっとび、エジプトのピラミッドまでだって行くことができます。目をつぶれば、月に行って月面に立つこともできます。本を読んでその場面を想像すると、主人公になった気分や主人公のお母さんになった気分も感じることができます。

ワクワク、ハラハラ、ドキドキ、夜になっても興奮は収まりません。寝る前には、読んだ本の場面場面が頭の中に浮かんで、そのイメージがぐるぐる回り、時には眠れなくなることもあります。このように“脳”に限界はない、どれだけ想像しても疲れない、と以前は思っていました。

“脳”に限界はない、と以前は思っていましたが

仕事でも“脳”を多く使います。プレゼンテーションの際は、発表のための資料をつくり、出てくる質問を予想してその回答例をつくります。プランを立てる際は、何が必要になるかを考え、どのくらい予算がいるかを計算しながらスケジュールを立てていきます。

大きなプロジェクトの時はさらに“脳”の力を多く使います。扱う金額も大きいですし、携わる人も多い。失敗は許されない、事故も起こしてはいけないなど「考える」ことは広範囲にわたります。昼間は外来や入院患者さんの診療をしていますが、時には患者さんが急変し、“脳”をフル回転して対応します。

仕事が終わってひと息いれた後、新しい治療についての勉強をしたり、情報を収集するために講演を聞きに行ったりします。論文を読んだり、研究のデータをまとめたりもします。学会の前になると、スライドや読み原稿をつくり、発表の予行演習をしたりします。仕事をしたあとに勉強しても疲れなかったなあ・・・と思います。

“脳”も大切に使うと色々なことができる

40歳半ばを過ぎて、“脳”も限界があることを知りました。思ったように仕事がはかどらず頑張りがきかなくなってきました。踏ん張りがきかないのはどうしてだろう?と悩んでいる間に、色々な症状が出てきました。これらの体験から「“脳”も物なんだ、限界がある」「メインテナンスも大切だな」と実感しています。

50歳過ぎた今、長い時間“考えて”作業をすると、頭が重くなって疲れてきます。“スペックが落ちたな”と感じます。一方、休みをとりながら“脳”を使うと、“意外と色々な事ができるな”とも感じています。“脳”に限界があると知ってから、以前より“脳”を大切に使うよう心掛けるようになりました。そして「何に“脳”を使いたいか」を意識するようにもなりました。

道具と同じで、“脳”も使い方が大切なのですね。大切にメインテナンスしながら使うと、若い時と比べて機能が落ちてきている私の“脳”も問題なく動いてくれているようで、色々なことができるのだ!と感じています。

国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉