心療内科ってなぁに? 第116回 医食農の話④

<心療内科ってなぁに?第116回:医食農の話④>

 第4週は自然(食事)と健康についての話題です。自然農の話だけでなく、食べ物と味との関係やエネルギー、漢方薬についても話していきます。

 

雑草は太陽のエネルギーだけでぐんぐん育ちます。刈り取っても、刈り取っても、どんどん伸びていきます。6月以降、暖かくなってくると、その勢いは増して、草刈りだけで体力を消耗し、へとへとになってしまいます。私たちが口にしている農作物は、何も手を加えないと雑草に負けてしまうので、雑草を刈り取る必要があります。一方で、この雑草を栄養(エネルギー)として用いて野菜を育てているので、雑草を伸ばして太陽エネルギーを地面に蓄えさせることも大切です。

 

もしかしたら皆さんは、普段食べている野菜も太陽のエネルギーだけでぐんぐん大きくなると思われているかもしれませんが、雑草と野菜は違います。雑草は太陽のエネルギーだけで育つこ庭の雑草のイラストとができますが、野菜など農作物が大きくなるには降り注いでくる太陽のエネルギーだけでは足りません。野菜の成長には、土にため込まれたエネルギーが消費されます。同じ場所に肥料をまかずに野菜を植えると、2年目は成長が悪くなり収穫量もぐっと減ることを経験します。どの程度雑草を生やして何時雑草を刈り取って地面に置くか、そして、そのエネルギーをどのようにして積み重ねて野菜作りに活用していくのかが自然農のポイントになります。他の農法では肥料(エネルギー)を持ってきて畑に投下しています。

 

当院では人の手で雑草を刈り取っていますが、広い畑では雑草も多いので機械を使って雑草を刈り取ります。また、自然農は不耕起で行いますが、慣行農法や有機農法では作物の収穫ごとに畑を耕し、畝を作り直します。人の手で土を動かすのは大変なので、昔は牛の力を、今は機械の力を借りて行っています。このように農作物の成長には降り注ぐ太陽エネルギーだけでなく、人の手(身体)や機械を介してエネルギーが必要となります。この他、慣行農法では雑草を除去する際に除草剤を使用しますが、除草剤の作成にも電気が使われ、ここにも太陽のエネルギーが関与しています。また、収穫の際にコンバインなど機械を用いた場合にも、電気や石油などの太陽エネルギーが用いられています。

 

作られた野菜が私達の口に入るには、売る・買うという商業的な内容も関わります。輸送や店舗の維持にも太陽のエネルギーが必要になります。最近SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)という言葉をよく聞きます。お金という基準ではなく、人の手や機械、肥料や農薬を介した太陽のエネルギーという基準で、どのやり方にどの程度の太陽エネルギーが関わっているか計算してSDGsについて議論すると、これまでとは違った見方が出てきて面白そうですね。

 

視点が変われば、物の見方が変わります。食事と健康の話をする時は、「慣行農法」「有機農法」「自然農」どれが良い?悪い?このような議論になりがちですが、これは頭(脳)の視点からみた“(相対的な)判断”になります。“その人の考え癖” “主観” “本人の好み”も入っています。大切なのは“健康的に生活していく”ために、これらのやり方(できた作物)を適切に選択できるバランス感覚です。経験値を増やしていって、皆さん自身の心の目でSDGsをみてくださいね。

 

このように農作物の成長には、直接的・間接的に太陽エネルギーが関わっています。食事をすることで体(脳+身体)を成長させ維持している私達も、多くの太陽エネルギーを必要としています。加えて、心の成長(行動の成長)には太陽エネルギーとは別の種類のエネルギーが必要になります。この話題は「行動」についての理解も必要になるので、もう少し後に話しますね。

 

国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉