心療内科ってなぁに? 第115回 心の成長(病気と健康)の話④:「咳」の診療について

<心療内科ってなぁに?第115回心の成長(病気と健康)の話4:「咳」の診療について>

“心”は“体の運転手”。第2週は“心の成長(英語ではCoro Heartの成長)= 運転技術の習得”や“どのようにしたら行動は成長する?”についての話です。“体(脳+身体)の使い方=運転技術”を習得し健康を作っていくことができるようになると、症状が出にくくなりお薬が減っていきます。

 

 4月に入り新年度になりました。今回は病院で行っている「咳」の診療について話します。

 

福岡病院には呼吸器・アレルギー疾患の患者さんが多く来院されます。その中に「咳」症状に悩まされている方も多くいます。“風邪が長引いて「咳」が治りません” “喘息があり夜間に「咳」が出てとまりません” “毎日痰をと一緒に「咳」が出ます” “寒くなると乾いた「咳」が出て春になるまで続きます”など、様々な「咳」症状を患者さんは訴えられます。

 

「慢性の咳」の原因には気管支喘息、COPD、間質性肺炎などの呼吸器の病気や後鼻漏、胃酸逆流などいろいろな要因があり、診断に苦慮することがあります。当院はアレルギーと呼吸器の専門病院で、アレルギー科、呼吸器科をはじめ、耳鼻科や心療内科もあり、治療に難渋した患者さんが当院に紹介されて来院されます。治療に難渋する咳症状の中には、ストレスが関係している症例も多くあります。どうしてストレスが「咳」症状に関係するの?という疑問を持たれた方もいると思います。ガイドラインをもう少し詳しくみていくと、“咳嗽の発生には、迷走神経求心路とする不随意な咳嗽反射と大脳が関与する随意的な咳嗽反応(咳衝動など)が複雑に関与している”という内容も記載されています。ストレスによって生じる神経系の異常が「咳」症状の発生や悪化に関与している可能性があります。

 

外界からの様々な情報は、目や耳、皮膚などで知覚され「脳」で処理されますが、その情報が大きかったり多かったりすると、私たちはこの状態をストレスと感じます。外界からの総ての情咳をしているお爺さんのイラスト報;物理・生物学的刺激や心理・社会的刺激は、ストレスの要因となりますが、日常では心理・社会的刺激によって生じた状況(症状)をストレスと呼ぶことが多いです。では、どのような人がストレス症状を生じやすいのでしょうか?「脳」を多く使う・考え過ぎてしまうといった特徴のある人は、普段から多くの心理・社会的な情報が「脳」に入ってきます。情報過多のストレス状態が長く続くと「脳」は疲れてしまい、機能低下(異常)が生じます。「脳」につながっている「神経」も緊張・興奮・敏感などの異常な状態になり、小さな刺激に対して強く反応し、症状として感じてしまうようになります。

 

基礎研究では、不安症状と大きく関係する扁桃体を電気刺激すると咳嗽(発作呼気反応)が生じたという報告があります。これはストレス刺激によって直接的に咳を誘発するといういわゆる心因性咳嗽の病態と関連しているかもしれません。このほか、サブスタンスP刺激に対する気管上皮反応は、ストレス刺激によって亢進することも示されています。この研究結果は、ストレス刺激によって、咳反射に関する神経系の反応が亢進することを示しています。これは近年話題になっている、Chronic Hypersensitivity Syndrome(CHS):原因に関わらず中枢性あるいは末梢性に咳反射が過敏になっているという概念、と関連しているかもしれません。

 

「咳」症状は、器質的な疾患だけでなく、機能的な要因も関係していると考えています。例えていうなら、消化器疾患に癌や潰瘍など“器質的な疾患”と、胃腸障害など“機能的な疾患”とがあるように、呼吸器にも肺癌や肺炎などの“器質的な疾患”だけでなく、“機能的な疾患”があり、「咳」がこの“機能的な疾患”に相当するのでは?この“機能的な問題”にストレスが関係しているのではと推察しています。

 

「慢性の咳」は一つの原因ではなく、複数の要因が絡み合っていることが多い印象です。この絡み合っている問題点をどのように紐解いていけばよいでしょうか?

 

“器質的な異常”では、「これが原因です!」とデータを示しながら異常を示すことができますが、“機能的な異常”は検査データで示すことが難しく、データを示しながら異常を示すことができません。このため、患者さんも治療者も「何かスッキリしない」「原因は何なの?」など悩ましく感じてしまいます。問題が難しければ難しいほど基本に立ち返ってしっかり検査を行い、可能な限り情報を収集して、「咳」症状の原因と対応を考えるようにしています。より多くのデータを集めて治療者だけでなく患者さんも納得できるように、要因をわかり易く示すように心がけています。

 

当院では、長引く咳の原因を調べるために、採血、レントゲン、CTなどによる呼吸器疾患の精査に加えて、24時間pHモニター、カプサイシン負荷による咳感受性テスト、アセチルコリン関連薬剤負荷による気道過敏性検査、耳鼻科検査、自律神経検査、ストレスチェックなどの検査を行い、検査結果を総合的に判断して、治療にあたっています。

 

春になり大分暖かくなりました。寒い冬に風邪や気管支炎にかかり、「咳」が長引いて今なお続いている方がいましたら、ご受診・ご相談下さい。福岡病院では初診は毎日あり呼吸器内科専門医が担当しています。外来で検査可能な採血、レントゲン、CT検査、呼吸機能検査など呼吸器に関する検査結果は当日にわかります。心療内科は予約制になっています。呼吸器内科ではなく心療内科の受診を希望される際は電話でご予約ください。

国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉