治療に関するお話⑧ “お薬のつぶやき”
“お薬が嫌い”という患者さんがいます。“お薬を使わないで、病気を治したい”と言われます。
「さて、どうしようか・・・」といつも悩みます。
「できればお薬なしで治したいけど」と思いますが、やっぱり「お薬を使わないと治らないですよ」という返事になります。
「お薬が嫌です」とはっきりいう人もいますが、なかには、「うつ病に使うお薬は・・・」「安定剤(不安に対するお薬)は・・・」など、なんとなく“嫌だな~”と不快な表情を見せる人もいます。 “う~ん”と言っているので、「飲まれますか?」「お薬出してもいいですか?」と聞いても“う~ん”という返事で止まってしまいます。
どうして血圧のお薬は平気で飲めるのに、「抗うつ薬」や「抗不安薬」は飲むのを嫌がるのだろうか?どうして胃薬は平気で飲めるのに、「抗うつ薬」や「抗不安薬」は飲むのを嫌がるのだろうか?
医療側の常識だけで話を進めるのは良くないと考えなおして、「どうしてお薬を飲むのが嫌なのですか?」と患者さんに聞いていきますが、はっきりとした理由を教えてくれないことのほうが多いです。理由はないけど「抗うつ薬」や「抗不安薬」は飲みたくないのだな~と感じます。
どうして?
なんとなくはわかっていましたが、経験を積んでいる中で患者さんの実際の声を聴くことができました。患者さんたちは、ぽつりぽつりと話してくれました。
- 自分の頭の中をいじられている感じがします
- テレビで抗うつ薬や抗不安薬は良くない、認知症になってしまう、と偉い先生方は話していました
- 知り合いや、夫からお薬をのむと余計に病気が治らなくなると反対されました
- 精神科に通院している患者さんのイメージが暗いので・・・
- 依存症になって、一生飲み続けなければいけないでしょう
「僕たち、私たちに罪はないのにどうしてそのように嫌がられるの?」
「せっかく人助けしたいと思って生まれてきたのに、そんなに嫌がらなくてもいいのに」
「血圧の薬や胃薬は気にせず飲んでいるのに・・・、他の薬と差別しないで!」
お薬たちはこのように話しているかもしれません。
国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉