心療内科ってなぁに? 第74回 心と体の関係④ “脳の空ぶかし”

心と体の関係④ “脳の空ぶかし”

 心は“体の運転手”。第3週は“体の扱い方” “運転技術”について書いています。心の成長(英語ではCoro Heartの成長)= 運転技術の習得、についての話です。

 

“空ぶかし”とは

 今回は“脳の空ぶかし”の話です。

 

 “空ぶかし”という言葉は、自動車運転について説明するときに出てくる言葉で、普段運転していない方や機械になじみのない方には難しい言葉かもしれません。外来で病気の事について説明するときに、この“空ぶかし”という言葉を用いることがあるので説明したいと思っています。もし、難しいと感じた方は流し読みしてください。

 

 辞書で調べると“空ぶかし”は「車輪に動力を伝えずにエンジンを回転させること」とあります。最近は国内の乗用車のほとんどがクラッチ操作の不要なオートマチック車で“空ぶかし”になじみがないかもしれませんが、オートマチック車でも“空ぶかし”ができます。ニュートラルに入れたままでアクセルを踏んでみて下さい。グオングオンという音が鳴って、エンジンだけ強く動きます。しかし、車は動きません。これが“空ぶかし”の状態です。私が免許を取った頃は、クラッチ操作を手で行う必要があるマニュアル車が多く走っていました。坂道発進は難しかったな~と思い出します。

 

 「クラッチ」という新しい言葉もでてきたので簡単に?説明します。「クラッチ」とはエンジンとトランスミッションと呼ばれる変速機の間にある、ディスク型の「動力伝達装置」のことです。エンジンの動力をタイヤに伝えたり、遮断したりする役割を担っています。この説明でわかりましたか?機械に関する言葉は難しいですね。自動車関係の専門家にしてみたら、この説明は物足りないと思いますが、この辺でやめておきます。エンジンの力をタイヤ(車体)に伝えるには、これらをつなげる「クラッチ」というものが必要!という事だけ覚えておいてください。

 

「脳」だけ多く動いていて「身体」は動いていない状態がある

 “エンジンの空ぶかし”と同じようなことが、患者さんの「脳」でも生じている!ということが今回の話題です。“脳の空ぶかし”、これは「脳」だけたくさん動いていて「身体」は動いていない、このような状態です。そんな状態ってあるの?という声も聞こえてきますが、デジタル情報であふれている現代社会ではこの状態にある人が増えています。テレビを見ているときは「脳」に刺激が入ってきていますが、身体は動いていません。スマートフォンを触っている時に動いているのは指だけですが「脳」は多く動いています。コンピューターでゲームや仕事をしている時も「身体」はほとんど動いていませんが「脳」はものすごく活動しています。どうでしょうか?“脳の空ぶかし”、このような状態に皆さんはなっていませんか?「考えることが好きな人」も、この状態になりがちです。

 

 「身体」の動きは目に見えますが、「脳」の働き具合(回転数)や「脳」の活動は目に見えません。そのため、知らず知らずに「脳」だけどんどん使われていくことがあります。「脳」の回転数が上がっていくとは、「脳」の細胞がどんどん興奮していくということです。いつの間にか「脳」の回転数が上がっていて「脳」がどんどん興奮し、その状態が長く続くと症状が出てきます。“脳の空ぶかし”の状況では、目に見える「身体」は動いていないので、周りからは一見“休んでいる”様にみえます。また、本人自身もこの状態に気が付かず、“休んでばっかり” “休んでいるのに疲れが取れない”などと感じている様です。

 

 “脳の空ぶかし”、行っていることに気付かないと病気になってしまいます。皆さんも注意してくださいね。

 

国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉