心療内科ってなぁに? 第80回 心と体の関係⑥「脳」と「身体」を上手につなげましょう

心と体の関係⑥「脳」と「身体」を上手につなげましょう

 心は“体の運転手”。第3週は“体の扱い方” “運転技術”について書いています。心の成長(英語ではCoro Heartの成長)= 運転技術の習得、についての話です。

 

 今回は「脳」と「身体」を上手につなげましょう!という話です。

 

 “クラッチ”、車を運転している人にはなじみのある言葉ですが、普段車を運転してない人にはわかり難いかもしれません。“機械や車の事はよくわからない” “あまりなじみがない”という方は、流し読みしてください。

 

 車やオートバイが動くための源(動力)はエンジンです。エンジンのグルグル回る力がタイヤに伝わると、タイヤが地面をけって回り車やオートバイが動きます。“アクセル”を踏むとエンジンに入るガソリンの量が多くなり、エンジンの回転数が上がりスピードがでます。“ブレーキ”を踏むとタイヤの脇にあるパットがタイヤに押し当り、摩擦の力でタイヤの回転が落ちていきます。

 

 動力であるエンジンは直接タイヤとつながっているわけではなく、動力伝達装置である“クラッチ”というものを通じて、動力の力がうまくタイヤに伝わるようになっています。動く前は動力とタイヤの軸は離れていて、エンジンが回っても車は動きません。低い回転の力が“クラッチ”を通してタイヤの軸に伝わると、ゆっくり車は動き始めます。多い回転の時に一気にタイヤにつながると急発進につながります。エンジンの回転とタイヤの動きがかけ離れ過ぎている時は、エンジンが止まってしまいます(エンスト=エンジンストップ。

 

 最近はクラッチ操作が自動で行われる“オートマチック車”が主流です。びっくりされる方がいるかもしれませんが、30年前は、多くの車に“アクセル” “ブレーキ”の他に“クラッチ”というペダルが車についていました。技術の発達とともにこの3つペダルの“マニュアル車”から操作が楽な2つペダルの“オートマチック車”に切り替わっていきました。

 

 “マニュアル車”では、“アクセル”を踏んで動力を切り離している間に手動でギアを変えながら(歯車の大きさを変えて)、車のスピードを調整していました。操作が多い分、車と会話している感じもありました。上手に“クラッチ”をつなぐことができると車はスムーズに動きますが、エンジンの回転と車の状況が合わないと“ガガガ”という歯車がかみ合わない嫌な音が出ていました。さらに無理して“クラッチ”をつなげようとすると、“ガクン”といってエンストを起こして車がとまります(坂道発進は嫌だったな~)。

 

 “オートマチック車”限定の免許の割合が大きくなり、今の車はほとんどがクラッチ操作の不要な“オートマチック車”であるため、“クラッチ”という言葉を知らない、聞いたこともないという人が増えていると思います。車の発達とともに見えにくくなってきましたが、「エンジン」と「タイヤ(車体)」を上手につなぐ“クラッチ(技術)”は今でも車の運転には必要な知識です。普段使っている“D=ドライブ”これが“クラッチがつながっている状態”、“N=ニュートラル”これが“クラッチがつながっていない状態”です。意識しながら行ってみるといいと思います。

 

 車だけでなく「体」でも「脳」と「身体」を上手につなげるためには、“クラッチ技術”が必要です。人の体は“オートマチック”です。ものすごく精密に“オートマチック”化されています。普段の生活の中ではわかり難いかもしれませんが、健康運転には“クラッチ技術”は大切なものです。デジタル情報が多くある今のこの環境では、「脳の使用」と「身体の使用」のバランスが崩れています。「脳の空ぶかし」とは、「脳」と「身体」が切り離されて「脳」の回転数が常に高い状態です。この状態を長く続けていると、「脳」の機能障害に陥ります。これが、ストレス関連疾患の原因です。

 

 ストレスの病気=症状が出ないように、大切な“クラッチ技術”を身に付けて下さいね。

 

国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉