心療内科ってなぁに? 第85回 病気と健康の話⑤“不安”は必要なもの!?

 病気と健康の話⑤“不安”は必要なもの!?

 患者さんに“不安ってどのように感じますか?”と質問すると、“不安は嫌なもの” “不安なんてなければいい!”、このような返事が返ってきます。皆さんはどのように感じますか?私にとって“不安”は、以前はとても“嫌なもの”でした。けれども最近は“不安”を“嫌なもの”と感じなくなってきました。「ストレス」と「脳」の関係について研究をして患者さんに関わっているうちに、全部の“不安”が悪いものではない?“嫌なもの”ではない?と思うようになり、最近は、逆に“不安は大切なもの” “不安がないと不健康になってしまう”、とも感じています。

 

 “不安”は“悪いもの”、それとも“健康にとって必要なもの”?

 皆さんの答えはどうでしたか?

 

 “不安(症状)”とは、心配や恐怖を伴う感覚のことで、「不確かなこと」「未来のこと」に対応しようとするときに生じます。辞書でもこのように書いてあるので、一般的に“不安”は“陰性のもの” “嫌なもの”としてとらえられています。私も以前はこのように感じていたのですが、「ストレス」と「脳」の関係について研究をして患者さんの治療に関わっているうちに、“不安”そのものは“嫌な”ものではないこと、それどころか、この“不安”は生きていくうえでとても大切な感覚で、安定的な生活が保つためには必要な感覚であることを知りました。

 

 このように書くと“難しい”と感じられるかもしれませんが、“不安”が無いと皆さんの未来がどのようになるか想像してもらうと、わかり易くなると思います。想像してみて下さい、もし全く“不安”を感じなくなったとしたら、皆さんの未来はどのようになるでしょうか?

 

 もし“不安”を感じることができなくなったとしたら、「未来に起こるかもしれない悪い事柄」を感知できなくなります。明日への“不安”が無くなるため、明日への対策を行わなくなります。明日への対策を全くしないと、私たちの生活はどうなるでしょうか?アリとキリギリスの話ですね。アリさんは蓄えることができるので、冬を越すことができます。私たちは、“不安”という感覚があるからこそ、明日や明後日に対して食料を貯蔵したりお金を貯蓄したりしています。もし“不安”を感知できなくなると、“稼いだお金は、その日に使ってしまえ!”になってしまいます。そして、ハッと我に返った時に“しまった、今日お米を買うお金がない!”という事になってしまいます。このような生活は健康的でしょうか?

 

 “不安”は人の健康な営みとって大切で必要な感覚になります。もちろん、明日、明後日、明々後日・・・さらに先のことまで「考え」てしまうと、“不安”もどんどん増えていくので注意しましょう。健康になるためには「やり過ぎず」「やらなさ過ぎず」、このバランスが大切になります。

 

国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉