心療内科ってなぁに? 第97回 病気と健康の話⑨ 頑張らない技術

第97回 病気と健康の話⑨ 頑張らない技術

以前「不安を減らす」ための技術として、「考える」という行為を減らす技術や、「考える機会を増やさない」技術を紹介しましたが、これらの技術が上手になると、どうして「不安」が減るの?という質問を受けました。少し詳しく説明していきたいと思います。

 

今回は「ニコッと笑って断ることができる技術」「相談することができる技術」「何か頼みごとをしてみる技術」についてです。

 

「脳」を多く使っている人は“自分で頑張る”という癖がついています。どうしてでしょうか?「脳を多く使う」=「多く考えている」人は、結果として色々なアイデアが出てきます。アイデアが出ると“やってみたくなる”のが自然な流れで、「考えることが好きな」人は、行動もともなってあれやこれや試行錯誤しながら、日ごろから色々な事にトライしています。

 

多くのアイデアをもっていて、しかもうまくいくように頭の中でプランを練りに練っているので、行動も効果的です。他の人よりアイデアが多く出る、行動も伴う、そしてその行動が効果的なので、“人に頼むよりも自分で行った方が早く効果的”と感じ、体力がある時は活動的になります。加えて“ありがとうと言われるのが嬉しい”という感情が伴うと、頼まれたこともついつい引き受けてしまい、“自分で頑張る”という「行動」が増えていきます。そしていつの間にか、このパターンが癖になってしまいます。この「行動」パターンは、幼少時期から培われてきた習慣で、当たり前のように日常で行っています。また、「脳」の中で考えていることは他の人と比べることはできないので、このような癖があることに、患者さんは気が付いていません。

 

体力がある若い時は“(小さな)症状があっても少し休んだら何とかなった”と、症状は表面にはでてきません。しかし、40代になり少し無理がきかなくなってきた時、また、立場も上がって人から頼られることが多くなった時や、人と人とを調整する必要が多くなった時に、「脳」と「身体」からの悲鳴が大きくなり、症状を自覚するようになります。“なにかおかしい” “疲れが取れない”などの症状や“咳が続く” “動悸がする” “○○が痛む”など具体的な症状を伴って病院を受診します。「脳」の機能的な問題は、一般的な「身体」の検査によって異常を示すことができないので、外来の先生からは“問題がありません”といわれることがほとんどです。けれども“なにかおかしい”ことは続いていきます。

皆さんは、“自分で頑張る”という癖がついていませんか?“人からの頼み事を引き受けてばかりいて自分から頼むことをしていない”もしくは“ありがとうと言われるのが嬉しくてついついやってしまう”、このような癖はありませんか? もし、このような傾向がある人は、「考えることが大好き」な人かもしれません。「脳」を多く使っているかもしれません。

 

「考えることが好き」な人は、“自分で頑張らない”=“相手に任せる”ことが苦手になりがちなので、一度立ち止まって一息いれて、上記の技術を練習してみてください。「断る」「頼む」ことは、結構ハードルが高いかもしれません。その場合は、「“う~ん”と悩んで返事をしない」「“できます” “いいですよ”とすぐに返事しない」でもOKです。これらもストレス低減の立派な技術になります。

 

国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉