心療内科ってなぁに? 第103回 病気と健康の話⑪ アンテナが伸びるとどうなる?

心療内科ってなぁに?第103回病気と健康の話⑪アンテナが伸びるとどうなる?

「脳」を多く動かしていると、周りに対する“感度”が上がり小さな情報も「脳」に入ってくるようになります。スマホでは3本電波受信マークが立っているとつながりが良い状況ですが、病気の人はさらに“感度”が上がって5-8本くらい立っている感じです。加えて、たくさん「脳」を使っていると、情報収集ができるアンテナの“距離(範囲)”も増えて、遠く離れた人の少しの変化も目に入り、多くの情報が「脳」に入ってくるようになります。“離れている人と目が合ってしまいます” “周りの人のちょっとしたしぐさや表情の変化に気付きます”。このように患者さんは話されます。

 

アンテナが伸びて感知できる範囲が広くなることは、決して悪い事アンテナを張る人のイラスト(女性)ではありません。健康を維持できる範囲であれば、このような特徴を持つ人は周りの人から重宝がられます。“あの人は良く気が付く” “お客さんの雰囲気や表情をくみ取って適切に対応してくれる” “細かいところに気が付くのでありがたい”というように、周りから頼りにされます。問題なのはアンテナが伸びすぎている時です。アンテナが伸びている時に「悩み事が増える」「どんどん考えてしまう」「仕事を頼まれて無理している」などが重なると、さらにアンテナが伸びてしまい“まわりの目線が気になる” “失敗できない”など、色々な事が“気になるようになり”、多くの事を“考える”ようになります。

 

「脳」は私たちの健康を維持するために常に体内の状態を一定に保つようにコントロールセンターとしての役割を担っています。医学用語ではホメオスターシスという言葉を用います。ホメオスターシスを保つために、外界や体内からの情報を「脳」で処理し、「脳」から「身体」に指令を出して、それぞれの事象に対応しています。暑い所にいるときは、体内の温度が上がったという情報を「脳」が処理し、汗をかくことで体温を一定に保つようにします。熱い鍋を触った時は、火傷をしないように手をパッと引く行動をとります。

 

「脳」を多く動かしている人は、外界に対する“感度”が上がるだけでなく、内側の“感度”も上がっています。少しの刺激で下痢をしたり、ムカムカしたり、咳が出るようになるなど、色々な症状が生じやすく(感じやすく)なります。少しの刺激で症状が出るという事は、症状を感じる機会が多くなるという事を意味します。症状が多くなり毎日のように症状があると、“どうして?” “なんで?”と不安になります。

 

不安を感じると、その症状の原因を探したくなります。インターネットにはその症状に関する多くの情報がアップされており、探せば探す程いろいろな情報が「脳」に流れ込んでいき、さらに「多くのことを考える」ようになります。インターネットを用いて症状の原因を探しても(個人の現在の状況に対する適切な)答えは見つからないので、“「脳」を使い”さらに“神経系を過敏にさせ” “症状を強く感じ” “不安になる”という悪循環に陥ってしまいます。

 

「脳」のアンテナが伸びている、感受性が上がっている人は、“アンテナが伸びる”→“内外に過敏になる”→“症状を多く感じる”→“情報がどんどん入ってくる”→“不安になる”→“多く考える”→“アンテナが伸びる”の悪循環に注意してください。アンテナが伸びすぎると、情報が勝手に「脳」にはいってくる“自動モード”になる場合があります。“自動モード”になると、際限なく症状を感じるようになるので注意してください。

 

もし“アンテナが伸びている” “過敏になっている”時は、その原因は「脳の使い過ぎ」「脳のオーバーワーク」です。このような時は、“「脳」を休める” “アンテナを縮める”ために「“デジタル情報から遠ざかる」「3m以内の事だけを考える技術」などを練習してみましょう。

国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉