心療内科ってなぁに? 第109回 心の成長(病気と健康)の話①:行動と「脳」の健康:どうすれば「脳」の健康をたもてる?

心療内科ってなぁに?第109回心の成長(病気と健康)の話①:行動と「脳」の健康:どうすれば「脳」の健康をたもてる?

“心”は“体の運転手”。第2週は“心の成長(英語ではCoro Heartの成長)= 運転技術の習得”や“どのようにしたら行動は成長する?”についての話です。“体(脳+身体)の使い方=運転技術”を習得し健康を作っていくことができるようになると、症状が出にくくなりお薬が減っていきます。

 

どうすれば、「脳」の健康をどう保つことができるでしょうか?

アルツハイマーのイラスト

「脳」の処理能力や容量(情報を溜め込める能力)には個人差があります。記憶力が良い人、記憶が不得意な人、計算が得意な人、計算が苦手な人など、個人によって「脳」の違いがあります。また、年齢やその時々の状態によっても変化します。年を取るにつれて処理能力や容量は衰えていきます。ピークは何歳くらいでしょうか?30歳代でしょうか?私の場合は40歳を過ぎてから無理がきかないな、と感じる様になりました。

 

文化や人種によっても変わってきます。他の国の人と比べると、日本人は「考える」=「脳を使う」ことが好きなようです。「脳を多く使う」と脳神経系が敏感になっていくので、細かいところまで「気にする」「気が付く」「こだわる」という性質も出てきます。日本の工業の発展に、この性質が大いに貢献してきました。「考える」という特徴や「こだわる」という気質は、農耕民族として生きてきた文化が影響しているかもしれません。作物を安定的に育てるには、毎日の天気を気にしたり、半年後の気候を予測したりする必要があります。長い年月をかけて「考える」「こだわる」という性質が身に付いたのかもしれません。

 

「脳」の健康を保つためには、自分自身の「脳」にどのような特徴があるのかを知ることが大切です。そして、「脳」を使っている“心”=“運転手”の癖も知る必要があります。手足を使った行動とは違い目に見えないのでわかりにくいですが、「脳を使う」という事も行動(行為)で、“心”=“運転手” の癖によって大きく影響を受けています。

 

みなさんは「脳」を使う事が好きですか?それともあまり好きではないですか?外来の患者さんに「脳を使う事が大好きですね」と伝えると、多くの患者さんは“そんなことはないですよ!”と返事します。“心”の癖 =「行動の特徴」を自覚するのは難しい様です。心療内科で対応している症状は「脳」の使い過ぎが原因なので、“心”の癖 =「行動の特徴」を知ってもらう事は、治療における根幹になります。薬の手助けで症状が一旦よくなったとしても、「脳を使う」という行為を減らしてもらわないと、病気全体としてはよくなっていきません(薬が減りません)。好きな事、得意な事の向こう側に病気があります。「脳を使う事が大好き」な人が「脳を過剰に使う」と症状が出てきます。使いすぎに気が付き、適切に「脳を使い」「脳を休める」ことができるようになると、症状は減っていきます。

 

難しいな?と感じている方はスマートフォンの例と比べながら「脳」の使い方について考えてみましょう。スマートフォンにも処理能力や容量に違いがあります。また、使用する人によってヘビーに使うか、ライトに使うか違います。スマートフォンの健康を維持するためには、この道具の変化、例えば、新しい/古い、容量が多い/少ない、処理スピードが速い/遅い、などに合わせて、適切に情報をインプットし、アウトプットすることが大切です。アウトプットには保存していた情報を捨てる(アプリを捨てる)ことも含まれます。もちろん“使う”だけでなく“休ませる” “メンテナンスする”ことも大切です。使用者がその時々に合わせて上手に“使い” “休ませる”ことができると、道具の故障(症状)は少なくなっていき、スマートフォンの健康が維持されます。

 

皆さんは「脳」を上手に扱えていますか?

「脳」の機能をその時々に合わせて上手に使えるようになると、機能異常は生じにくくなり、症状(アラート信号)は減っていきます。“心”は体(脳+身体)の運転手。「脳」のメンテナンスができるようになり、扱い方が上手になると、「脳」の健康を保てるようになります。

 

国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉