はじめに
毎年5月 第1火曜日は世界喘息(ぜんそく)デーで、2021年は5月4日です。
1993年に喘息の認知度を高め理解を深める目的で、世界保健機構(WHO)と喘息国際指針(GINA)によって制定されましたが、日本ではゴールデンウイーク期間中にあたってしまうため、関連イベントなどがなかなか普及していないのが現状です。
そこで、4月の特集では一足先に、大人の気管支喘息を取り上げたいと思います。
病名のこと・歴史のこと
「ぜんそく」という病名に使われる「喘」の文字は普段使われる機会が少なく、読み方がすぐに思い浮かばない方も多いかもしれません。漢和辞典によると、訓読みは「あえ(ぐ)」「せ(く)」で、息切れやハァハァと短く呼吸をすることを意味する、とあります。
喘息は昔から人類を苦しめてきた病気の一つで、医学の父と呼ばれた古代ギリシャの医学者・ヒポクラテスも記録に残しています。
気づきにくい成人の喘息(ぜんそく)
気管支喘息というと子供の病気と思われがちですが、大人でもよく見られる病気です。
小児喘息からの持ち越しで成人になっても喘息続くという場合もありますが、中高年になって生まれて初めて喘息になることも珍しくありません。
しかも、大人の喘息では息を吐くときに出る「ヒューヒュー、ぜーぜー」という喘鳴(ぜんめい)がなく咳が唯一の症状として現れる「咳喘息」も多いため、喘息だと気づかれないこともしばしばです。
症状の特徴
喘鳴、咳、痰、息苦しさなどの症状は、夜間や早朝に起こりやすいことが特徴です。
季節の変わり目など気温差が大きいとき、天候が悪いとき、疲れているときなどにも症状が出やすく、また、タバコや線香の煙、強いにおいなど刺激があるものを吸い込んだ時に発作が出る人もいます。
風邪やインフルエンザなどのウイルス感染がきっかけで発作になることもありますが、咳や痰など症状が共通するため、区別しにくくなる可能性もあります。
原因は気道の慢性炎症
喘息の諸症状は気道(空気の通り道:気管・気管支)が狭くなることで現れます。近年、喘息の気道では好酸球(白血球の一種)が引き起こす喘息に特有の炎症が慢性的に続いていることが解明されてきました。
この慢性炎症によって、粘膜が腫れあがったり(浮腫)、痰の分泌が過剰になったり、敏感になった気道がわずかな刺激に反応したりして、症状が出ると考えられています。
治療の基本は発作の予防
治療薬には、発作が起こったときに気道を広げる発作治療薬(リリーバー)と、発作を起こりにくくする長期管理薬(コントローラー)があります。
コントローラーを使って発作を予防することが最も重要で、気道の炎症を抑える吸入ステロイドが治療の中心となります。吸入ステロイドだけで効果が不十分な場合には、必要に応じて他のコントローラーを併用します。
内服ステロイドは様々な副作用が知られていますが、吸入ステロイドは気道にだけ作用するため、内服薬の1/10以下の量で充分な効果が得られます。しかも、体のほかの場所にはほとんど到達しないため副作用の心配もほとんどありません。ただし、正しい吸入方法を習得する必要があります。
治療を継続することが大切
喘息は高血圧や糖尿病のような慢性疾患なので、毎日欠かさず治療を続ける必要があります。
降圧薬を飲んで血圧が下がれば高血圧が完治したという考えが間違っているのと同様に、喘息でも治療を中断すると、たとえ症状がなくても気道の炎症が再び悪化してしまいます。
治療を怠って炎症が続くと、気道の壁が固く厚く変化する「リモデリング」という状態に陥ります。リモデリングを起こした気道は、動脈硬化になった血管のようにしなやかさを失い、狭くなったまま元に戻らず、喘息の難治化につながります。
そうならないためにも、喘息と診断されたら適切な治療を長期に継続することが大切です。
国立病院機構 福岡病院 院長 𠮷田 誠