2021年5月度 今月の特集「呼吸の日」

はじめに

5月9日は「呼吸の日」です。2007年に日本呼吸器学会により制定されました。そこで、今月の特集では呼吸の話をいたします。

なぜ呼吸するのか?

生きるためには呼吸をしなくてはならない、ということを知らない人はいないでしょう。

では、なぜ呼吸が必要なのでしょうか?こう問いかけると、恐らく「酸素を体に取り入れるため」という答えが返ってくるでしょう。

それでは、なぜ酸素が必要なのでしょうか??それは、酸素がなければ生命活動に必要なエネルギーが得られないからです。

私たちは、食べ物に含まれる糖や脂肪などの栄養分を分解して、エネルギーを取り出していますが、このときに酸素が使われるのです。中学校や高校のときに生物の授業で習った「好気性代謝」のことです。酸素を使わない「嫌気性代謝」と比べると、実に19倍ものエネルギーが取り出せることがわかっています。

呼吸に休みなし

「好気性代謝」を維持するためには、酸素が常に体の隅々まで行き渡っていなければなりません。そのため、私たちは生まれてから死ぬまで、一生の間、寝ても醒めても、絶えず呼吸を続けなければならないのです。

ここで、エネルギーを得るために必要な、酸素と栄養分を取る方法を比べてみましょう。酸素は呼吸で取り込み、栄養分は食事で取りますが、食事は呼吸と違って四六時中食べ続ける必要はありません。一方、呼吸の場合は、食事みたいに「1日3回」で済ませるわけにはいきません。

不思議ですよね。これは、栄養分が肝臓や脂肪組織などに蓄えることができるのに対し、酸素の方はごく微量しか蓄えることができないからです。

クジラやイルカなどの海生哺乳類では、筋肉内に大量の酸素を蓄えられるので、1時間以上呼吸をせずに潜水できるそうですが、残念ながら人間ではそういう訳にはいきません。呼吸がたった5分間止まるだけで、生命の危険にさらされてしまいます。

そのため、体内の酸素が不足したら、出来るだけ速やかに酸素吸入や人工呼吸、重篤な場合はECMO(エクモ(体外式膜型人工肺))などの治療を始めなければならないのです。そして、これらの治療は、酸素不足の原因となっている病気が良くなるまで、間断なく続ける必要があるのです。

呼吸は酸素と病気の入り口

呼吸によって吸い込まれた空気は肺に入っていきます。肺の中では、空気に含まれる酸素が毛細血管を流れる血液に取り込まれ、酸素を豊富に含んだ血液が心臓の働きで全身を巡り、体の隅々にある組織まで届けられます。

酸素を効率よく取り込むために、肺は細かい袋状の「肺胞」に分かれています。肺胞の数は、左右の肺を合わせると実に3億個以上に及びます。目の細かいスポンジのような柔らかくてデリケートな臓器なのです。

息を吸って肺に酸素が入るときに、PM2.5などの細かい粒子やウイルスなど、有害なものも一緒に流れ込んでしまいます。肺には、それらを取り除いてきれいにする働きが、もともと備わっていますが、処理能力を超えてしまうと、傷ついて病気を引き起こす原因になります。

その中で最も害が大きいものの一つが、たばこの煙です。喫煙の害については、6月の特集で取り上げる予定ですが、ここでは一言「百害あって一利なし」とだけお伝えしておきたいと思います。

国立病院機構 福岡病院 院長 𠮷田 誠