2021年6月度 今月の特集「たばこの害」

はじめに

毎年5月31日は「世界禁煙デー」です。禁煙を推進するために1988年に世界保健機構(WHO)が定めた記念日です。日本でも、1992年に厚生労働省が5月31日から6月6日までの1週間を禁煙週間に定めました。そこで、今月の特集では、たばこの害を取り上げたいと思います。

喫煙習慣でおこる体の変化

まず、の写真をご覧ください。写っている二人の女性の関係を想像してみましょう。顔立ちが良く似ているので血のつながりがありそうですね。親子でしょうか?それとも年の離れた姉妹?それとも・・・

実は、22歳の双子が40歳になった時を予想した写真です。左は喫煙習慣がある場合、右はタバコを全く吸わない場合です。左側の女性は、肌が乾燥して張りがなく、しわ・しみ・そばかすが増えています。口元を見ると、歯の色も黒ずんでいます。 このように、喫煙習慣は皮膚の老化を早めるのです。

(※写真出典:アメリカ Action on Smoking and Health ホームページ)

タバコは万病のもと

喫煙習慣による変化は、体の表面(皮膚や歯)だけに留まりません。影響は外からは見えないところにも及びます。

喫煙者では様々な病気のリスクが高まることが知られていますが、その中でも最も良く知られている病気の一つが肺癌です。タバコを吸わない人と比べるとその確率は10倍以上に跳ね上がります。煙の通り道である咽頭や喉頭の癌も約14倍、食道癌や口腔癌も数倍になります。さらに、煙に含まれる発癌物質は吸収されて全身に及ぶため、タバコの煙が直接到達しない臓器の癌も増えます。膀胱、肝臓、膵臓、腎臓、大腸、胃、皮膚、前立腺、白血病、リンパ腫、全て喫煙でリスクが増えるという統計があります。

癌だけではありません。肺の病気では、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の原因のほとんどは喫煙習慣と考えられています。喫煙を続けると肺の働きが低下し続けて呼吸不全を招き、酸素吸入が必要になることも珍しくありません。COPDのことを御存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、全世界で死亡原因の第3位になっている身近な病気です。(※詳しくは2020年11月の特集をご覧ください。)

喫煙者は非喫煙者と比べて平均寿命が短いという統計もあります。健康寿命はさらに短くなるため、介護が必要なる可能性や、介護年数が長くなる可能性もでてきます。

煙に含まれる有害物質

たばこの煙には4000種類以上の化学物質が含まれており、そのうち少なくとも200種類以上は人体に有害であることがわかっています。

その中で、ニコチン、タール、一酸化炭素は三大有害物質と呼ばれています。ニコチンは、血管収縮作用により動脈硬化を引き起こし、脳梗塞や心筋梗塞のリスクを高めます。タールは、フィルターに付着するヤニのような茶色の粒子の総称で、数10種類の発がん物質を含んでいます。一酸化炭素は、血液中のヘモグロビン(酸素を組織に運ぶ蛋白質の一種)に結合すると、組織の酸素不足を招きます。

大量のPM2.5(直径2.5μm以下の微小粒子状物質)も含まれています。日本の環境基準値は1立方メートルあたり35μgですが、乗用車の中で喫煙すると車内は1000μgというとんでもない数値にまで上昇します。車の中で基準の30倍以上ですから、肺の中はいったいどうなっているのか、想像するだけで恐ろしくなりませんか。

わかっているけどやめられない方のために

たばこが体に悪いことは、喫煙者の皆さんも重々ご承知のことと思います。

しかし、わかっていても簡単にやめられずに、苦しんでいる方も多いことと思います。三大有害物質の一つであるニコチンによる薬物依存や、心理的な依存が、喫煙習慣を断ちにくくしています。本人の精神力だけでは抗えない側面もあるのです。周囲の人の支援が助けになることもありますが、それでも難しい場合は、保険診療で禁煙外来を受診するという方法もあります。

福岡病院では、敷地内禁煙や専任看護師などの施設基準を満たし、2012年から禁煙外来を開設しています。この機会に禁煙に挑戦(再挑戦)してみませんか。

国立病院機構 福岡病院 院長 𠮷田 誠