心療内科ってなぁに? 第63回 心と体の関係①「脳のマラソン」

心療内科はストレスが原因である病気を診ているため、これまで「脳」に関するエッセイを多く書いていました。これからは、「心」と「体=脳+身体」との関係についても書いていこうと思います。

「脳」の使い過ぎによって生じる病気を 「身体」に例えると

“脳マラソン”、皆さんはこの言葉を知っていますか?

“脳マラソン”、この言葉は科学的な表現ではありませんが、患者さんに説明しやすいので、この言葉を作りました。ストレス関連の病気は「脳の使い過ぎ」によって生じますが、患者さんは、この病気の病態や治療について理解しにくい様です。ストレス関連の病気は、採血データなど目に見える情報が少ない(または、情報がない)ためと感じています。多くの言葉を使って説明しても、“わかりにくい”といった患者さんの表情をよく目にします。このような時は、例えを使いながら説明するようにしています。データが出にくい(出ない)ため理解し難かったストレス関連の病気 =「脳の使い過ぎ」が原因で生じる病気は、「身体」の例 =「マラソン=身体の使い過ぎ」を用いて説明すると、幾分かわかり易い様です。

皆さんはマラソンを行ったことがありますか?長い距離を走る競技、オリンピックでも行われている、あのマラソンです。行ったことが無い人は、たくさん走った時の経験や、オリンピック競技を見たときの画面を思い出しながら考えてみてください。

マラソンをするとどのようなことが生じますか?

マラソンが終わった後、皆さんならどのような行動を行いますか?

多く走ると「身体」ではエネルギー(栄養分)が枯渇したり、筋肉にダメージが生じます。また、マラソンを行った後は、体がふらついて立って歩くことができないくらい“疲れ”ます。マラソン後「身体」はとても“疲れる”ので、私たちは“休む”という行動をとります。“疲れたら休む”、「身体」のエネルギーの回復やダメージの修復に必要なこの“休む”という行動については、皆さん理解しやすいようです。

目に見える「身体」への疲れに対して 目に見えない「脳」への疲れは…

“疲れ”という症状は、実をいうとあいまいでわかり難い症状なのですが、「あ~マラソンしたから疲れた~!」「マラソン頑張ったね~、へとへとで休まないとね」といったように、マラソンと“疲れ”を結びつけることを皆さんは簡単に行えています。また、マラソンを“やめて” “休む”ことが、「身体」の回復に必要であることも、理解できていると思います。マラソンが“目で見える” “わかり易い”、「身体」に関する行為だから、皆さんは、マラソンと“疲れ”を結びつけることができるのです。

一方、「脳」を使うという行為は目で見ることができません。“疲れ”はあいまいで理解しにくい症状です。また、“脳マラソン”は目に見えない行為です。このふたつを皆さんは簡単に結びつけることができるでしょうか?ふたつの事柄、その両方が理解し難かったり、目に見えないことであった場合、ふたつを結びつけるのはとても難しくなります。

「脳」を多く使う、“脳マラソン”をしていることそのものに私たちは気が付いていない様です。加えて、「脳」が“疲れた”ことや、“脳マラソン”を“止めて” “休む”ことの必要性についても私たちは理解しにくい様です。心療内科を受診される患者さんは、ずっと“脳マラソン”を続けてしまいます。どのくらい続けている? 数週間?数カ月? いえいえ、多くの方は数年、数十年と“脳マラソン”を行っています。そして、「脳」が疲弊して、色々な症状がでてから病院を受診されます。

“脳マラソン”という言葉、皆さんはどのように感じましたか?

皆さんは、“脳マラソン”を行っていませんか?

国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉