<心療内科ってなぁに?第118回:医食農の話(5)>
第4週は自然(食事)と健康についての話題です。自然農の話だけでなく、食べ物と味との関係やエネルギー、漢方薬についても話していきます。
漢方薬を勉強すると、普段食べている食事に、こんな作用があったのだな~と食材への理解が深まります。西洋医学的な視点とは違い別の視点も加わるので、治療の手段やアドバイスの幅が広がります。今回は葛根湯の基本の処方である桂枝湯の話しです。桂枝湯や葛根湯は風邪症状に対して多く使われているので、この処方について勉強していくと、風邪という病気についての理解が深まります。
葛根湯(かっこんとう)には、桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、葛根(かっこん)、麻黄(まおう)、の7つの生薬からなっています。葛根湯は一つの薬と思われがちですが、色々な生薬が集まった処方、風邪セットです。西洋の風邪薬にも、色々な成分が入っている総合感冒薬がありますが、同じ感じです。葛根湯についてよく理解するためには、西洋の薬と同じように、それぞれの生薬についてその薬理作用を知ることが大切です。薬理作用といっても西洋医学の理論とは視点が全く違うので、西洋医学を学んでいる日本の医療者にはとっつきにくいものになります。例えていうなら、外国の言葉、文化や習慣を新しく習う感じです。これくらい違いがあるので慣れるだけでも大変です。ちなみに、西洋医学の基礎を学ぶ期間は、大学で6年間ありました。同じ言語でも、新しく医学を学ぶということには時間がかかります。加えて視点や言語が異なるとさらに難しさがUPします。西洋医学も東洋医学も同じ体(病気)を診ているのですが、視点が違い、処方が違うと、慣れるまでは混乱してしまいます。東洋医学も、西洋医学と同じように、問診、所見、理論に基づいて診断、加療しています。医学の知識や経験があれば、3年くらいしっかり勉強すれば言葉の使い方に慣れ、漢方薬の概要がみえてきます。
さて、葛根湯を理解するためには、桂枝湯(けいしとう)という処方を理解する必要があります。なぜかというと、葛根湯は桂枝湯を基につくられているからです。桂枝湯は、桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草の5つの生薬より構成されています。この5つに葛根、麻黄が加わったものが葛根湯です。桂枝湯こそが風邪の基本処方であり、この処方を理解しないことには、葛根湯も理解できないということになります。
桂枝湯で使われている生薬は、皆さんが普段食べているものも含まれています。
桂枝 → シナモン
芍薬 → これは、芍薬の根です
生姜 → まさしく生姜
大棗 → 棗;なつめ
甘草 → 甘口醤油に入っている甘味料
どうですか?漢方薬を勉強していくと、食材についての知識が豊富になるという意味が理解できると思います。処方にその名が付いている通り、桂枝湯のなかでは、桂枝(シナモン)がメインの薬になります。桂枝(シナモン)は、クスノキ科ニクケイ樹枝です。教科書には、“桂枝(シナモン)は、辛味で身体を温め、膀胱経に入る薬である。桂枝は汗を発せさせるのではない、血気を調和する。だから、汗がしとしと出ている様な、風邪の人の症状に使う”、とあります。この説明、わかりましたか?慣れない言葉もありましたね。
解説すると、桂枝は身体の表面の気を補って、血の巡りを調和させる。その結果、身体の表面を温めて、表面の冷えを改善させる。発汗作用があるわけではないので、汗がしとしと出ているような風邪に使う(使うことができる)。膀胱経は、後頭部 → 後頸部 → 背中(中心より) → 膝裏 → 足という具合に流れているので、桂枝はここの部分を温めて症状を改善させる効果がある。このような説明になりますが、理解できましたか?余計に難しく感じたかもしれませんね。
風邪の最初の症状は、“背中がゾクゾクする”“寒気がする”です。ひどくなると、熱が出て、気分が悪くなります。食欲はあまり落ちていません(食欲が落ちた時には、症状が深くなっており治療には別の漢方薬を使います)。 身体が少し弱っている時、体表のエネルギー(気)が少なくなっているとき、寒さに負けて、身体の表面が冷えてしまいます(寒さが身体に入ってきます)。
そうすると、体の一番表面を流れているとされる膀胱経(背中)のエネルギーが減り、この部分がゾクゾクしてきます(冷たさを感じます)。膀胱経は頭から足方向へエネルギーが流れているので、巡りが悪くなると、体の上の方でエネルギーの停滞が生じます。これが頭痛、逆上せ、顔面紅潮といった症状になります。ちなみに、西洋医学では、風邪はウイルス感染症による症状と考えられていて、感染により免疫細胞が活性化して、サイトカインという物質が放出され、炎症反応が生じる、その際に脳内の温度管理のセットポイントが移動する、と考えられています。
東洋医学的な視点でみた風邪の症状について理解することができましたか?桂枝(シナモン)は足の膀胱経に入る薬で身体を温める効果があります。桂枝の作用を用いて膀胱経(背中)のエネルギーを補って症状を改善に導きます。他の4つの生薬:芍薬、生姜、大棗、甘草は桂枝の役割を補佐しています。芍薬は桂枝が走り過ぎないようにブレーキの役割を果たしていて、気の巡りのバランスを取ってくれています。生姜は胃腸を温めることで桂枝を補佐しています。大棗や甘草は甘味で滋養効果をもたらしてくれます。
東洋医学的な視点で風邪に対する理解が深まると、民間療法といわれる、昔ながらの地方に伝わる伝統治療法への理解も深まります。桂枝湯が手元にない時は、シナモンティー、ジンジャーティーが代わりになります。シナモンティーは紅茶で胃腸を温めそのエネルギー(気)をシナモンで膀胱経までもっていきます。ジンジャーティーは生姜で保温効果を高めて、胃腸~膀胱経を温めます。たまご酒も体を温め、お酒で巡らす+たまごで栄養をつけて、風邪症状の改善を図っています。その他、背中がゾクゾクした時には、ストーブで背中を温めると有効なことがあります。膀胱経(背中)のエネルギーを補うという事が治療のポイントになります。
風邪症状は外部の寒さが原因で発症しているので、治療の基本は内から体を温めることです。たいていの場合、疲労も伴っているので休むことも大切です。熱がでて体が暑いからといってアイスクリームばかり食べていると風邪は治りません(少しずつならアイスを食べてもいいですよ)。風邪をひいたときには、体を温めて、ゆっくり休んでくださいね。葛根湯の話は来月に予定しています。
国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉
