第4週は自然(食事)と健康についての話題です。
体(脳と身体)は自然界の物質やエネルギーで構成され、体のバランスは、自然界の法則に従って調整されています。科学は自然界の法則を細かく研究し、私たちに見える形、理解できる形として示しています。私たちは、この科学の力を生活の中に取り入れ活用しています。
科学が発展した今の社会では、薬やサプリメントが充実し、健康に関する情報も多くあります。科学技術をたくさん用いたほうがより健康になれるのでは?と思われるかもしれませんが、科学の力を使うばかりでは健康にはなりません。頼りすぎると、健康が損なわれることもあります。健康を維持するためには、科学と自然をバランスよく活用していくことが大切です。薬やサプリメント、スマートフォンや自動車といった科学の力ばかりでなく、木や花を見て、鳥の声を聞き、風を感じるなど、自らの体を使って自然をダイレクトに感じていくことも大切です。
科学と自然の話は、ミクロ(小さい、細かい)とマクロ(大きい、全体)の話に置き換えることができます。
科学は自然を細かく分析し、法則を見出していきました。科学は何か新しい事柄を作り出してきたというのではなく、自然の中にすでにある法則や事柄を見つけ出し、応用し、活用しています。科学はミクロを追い求めていくことが得意な分野とも言えます。
医学の分野では、顕微鏡で組織を見て正常と異常を分けました。顕微鏡技術が向上することで細菌を見つけ出すことができました。今は電子顕微鏡や遺伝子検査でウイルスについても詳細わかるようになっています。これらの技術を活用することで、診断技術や治療法が発展してきました。
一方で、自然を「そのまま」「あるがまま」全体として感じる、自然を感じながらその中にいる私自身も感じる・・・。これがマクロです。都会(科学の力)から離れて、自然の中で過ごしてみると、色々なことに気が付くことができます。疑似体験するのならキャンプを行うとよいでしょう。
心理学領域では、「あるがまま」を理解し感じる技術を向上させることを目的に開発された治療法があります。皆さんは、マインドフルネスという言葉を聞いたことがありますか?マインドフルネスは、禅の概念を医学に応用し開発された技法です。その根幹となる学びは「今この瞬間の状態をそのまま観察し続ける」ということで、できるようになるために技術を練習していきます。この技法は、うつ病、不安障害など精神疾患や、喘息などの身体疾患の症状の改善に役立つことが示されています。
「あるがまま」を理解するのはとても難しいですが、ミクロとマクロという言葉を使うと少しわかりやすくなると思います。ミクロのものを探していくのが得意としているのが科学であり、マクロを探していくのを得意としているのがマインドフルネスなどの心理療法となります。禅もマクロを求めていく技術といえるでしょう。
ミクロもマクロもどちらも人を見ています。何が違うのかというと、人を見る視点が違います。科学は細分化してみている一方、マインドフルネスは人を「そのまま」にみようとしています。
ちなみに漢方医は「そのまま」「マクロ」の視点から人を診るのを得意としています。自然の草花をそのままの状態で使用する漢方薬は、2000年前に草花を食べ、感じて、体の反応をチェックしながら、その知識と理論体系が構築されました。2000年前は科学技術は発展していなかったため、採血検査、レントゲンやCT検査、心電図やエコー検査はありませんでした。治療者は自らの5感(触覚、視覚、聴覚、味覚、臭覚)を頼りに、患者さんを診察し、漢方薬を処方しました。
先人の経験の積み重ねでできたこの漢方薬(東洋医学)の理論体系を、私たちは今も活用しています。2000年前の理論をそのまま現代の医療の中でも活用しており、すごいことです。時代は変わっても、人の体の構造、症状の出方は、変化していないということがわかります。
人を科学というミクロの視点で見たり、マクロの視点で見たりと、バランスよく観察していくと、より深く人を理解できるようになり、私たちは健康的に生きていけるようになります。
11月30日(日)に第50回日本東洋医学会九州支部学術総会「次世代へ繋ぐ漢方」が開催されます。教育講演の演者を承りました。「人を診るということ ‐西洋医学・東洋医学・心の医学の交差点‐」という題で話す予定で、ミクロとマクロの話も入れようと思っています。
国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉
