心療内科ってなぁに? 第155回 症状ってなぁに?16 スマホは健康を害する?

“心”は“体の運転手”。 メンテナンス技術と運転技術(ドライビング技術)、これらの技術を身に着けていくことが、「心Coro Heartの成長=行動の成長」につながります。“体(脳+身体)の使い方=運転技術”を習得し、健康を作っていくことができるようになると、症状が出にくくなりお薬が減っていきます。

 

 近年、スマートフォン(スマホ)など最新の科学技術が身近になり、デジタル情報に触れる機会が増えています。なにかわからないことがあると、スマホで検索して情報を収集するなど、「思考」と関係のある「行動」を選択し、それを繰り返す場面が多くなりました。その一方で、スマホの過剰使用が問題となり、「スマホ依存」や「問題的スマホ使用」といった言葉も使われるようになっています。

 

 スマホを使用している時は、スマホ内でのデジタル情報を収集・処理するといった「行為」やゲームを行うことで、達成感などの刺激(報酬)を得ています。スマホを触るという行動を繰り返している人は、情報を収集して情報を処理する行動(脳の使用)が「楽しいもの」「達成感を得られる」と認識され、「スマホで情報を収集する行動」はどんどん強化されていきます。このような刺激(報酬)と行動のループは「依存」につながります。

 

 デジタル情報を収集し扱う技術を身につけることは、脳機能を活性化するという観点では有効です。しかし一方で、口や手足を使った活動(身体を動かす、対面で話す、家事をする等)の頻度が減り、これらの行動から遠ざかる可能性があります。その結果、検索やゲームなど、インターネット上の活動を繰り返すという「脳」に偏った「行動」を多く行うようになります。こうした偏りが続くと、いわゆる「脳のオーバーワーク」が生じ、関連する精神症状や身体症状を生じます。「脳」が疲弊した場合には、抑うつや意欲の低下、思考停止といった症状が出現します。また不安やイライラなどの過敏に関する精神症状も出現します。加えて、胃腸機能の異常や動悸、過換気などの身体的な症状も出現します。

 

 スマホの過剰使用は、「脳を使う行動」ばかりを強化し、「全身を使った行動」を行う機会を減少させる可能性があります。外来では、「全身を使った行動」を向上させるための刺激が減り、「全身を使う行動」の技術が十分に育たず、未熟なままで経過し、技術が不足したまま大人になっている人を診ることがあります。生体の維持や健康の維持には、対面で人と話す、掃除する、食事を作るなど、生活に必要な経験を積み、技能として獲得していくことが重要です。しかし、スマホを介したデジタル情報の世界で過ごす時間が増えると、これらの経験を積む機会が少なくなり、その結果、対人関係を構築する技術、特にコミュニケーション技能の脆弱さが残存してしまいます。これらの未熟さが、さらに「脳のオーバーワーク」を維持させ、「思考」に関連した行動がいっそう強化されるという悪循環が生じます。

 

 この悪循環に陥ると、「考える」技術ばかりが強化され、「感じる」技術(全身を用いて自己の内外を感じ取る力)の成長が妨げられます。とくに「内面を感じる」技術が未熟なままになります。近年、内受容感覚(内的受容感覚)の低下と、抑うつ・不安症状との関連も報告されています。「内面を感じる」技術が未熟であると、不安、抑うつ、イライラといった感情や症状の変動への気づきが乏しくなります。その結果、これらの不快感に適切な「行動」をとることができないため、精神症状が悪化するなどの悪循環が持続します。

 

 脳と身体のバランスが整っていると健康が保たれますが、バランスが崩れるとさまざまな症状が増えていきます。最近、疲れやすい、イライラが増えているなどの症状がある方は、「脳の使い過ぎ」「スマホの触り過ぎ」「デジタル情報の取り込み過ぎ」が原因かもしれません。

 

 これらの「行動」は歩く、走る、話すなどの、「目で見ることができる行動」とは違い「目で見えない行動(行為)」なので、自分自身で自覚する以外に気が付くことができません。体(脳と身体)の不調がある方は、「脳」に意識を向けて、「脳をどれくらい使っているか?」を確認してみましょう。

 

国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉