心療内科ってなぁに? 第168回 “辛味” の話
味と身体の関係(=味の作用)を理解するいちばん簡単な方法は、実際に食材を口に入れてみることです。はっきりした味のものを食べると、その特徴がより分かりやすくなります。頭であれこれ考えるよりも、一度口にしてみれば、体の反応として“作用”を感じ取りやすくなります。「百聞は一見に如かず」ですね。食材を口に入れて、皆さん自身で確かめてみてください。いろいろな食材を“口の中で”チェックしていくと、意外な作用に気づくかもしれません。
今回は “辛味” の話です。辛味のもの、たとえば辛いカレーや辛いキムチを口に入れてみましょう。すると、口が大きく開き、身体から汗が出てきます。これが辛味の 「発散作用」 です。発散作用のある食材を食べると、口だけでなく、体全体でこの作用が働きます。体表では毛穴が開き、体内の水分が外に出やすくなります。体の内側では、血液や水分(リンパ液など)の巡りがよくなります。
物事を内から外へ広げる、動かす、押し出す――これが辛味の「発散作用」です。図で描くと、このようになります。
漢方薬で用いる“辛味”の生薬として代表的なものは、桂枝(シナモン)、生姜、附子などです。辛味の生薬の多くは、気・血・水(津液)の巡りを促し、結果として体を温める方向に働くものが多いと説明されます。
では、どうして風邪の時に葛根湯(※桂枝湯に葛根・麻黄などを加えた処方)を用いるのでしょうか。
冬になり外気が冷たくなると、体は毛穴を閉じて、寒さが体の中に入り込むのを防ごうとします。東洋医学では、体表をめぐる気(エネルギー)が、体内に(寒)邪が入り込むのを防いでいる、と説明します。
この防御が十分でなく、体内に(寒)邪が入り込むと、風邪の症状が起こる――という捉え方になります。邪気という言葉は難しく感じられるかもしれませんが、ここでは単純に「温度の低い外気の影響で、体が冷えて不調が出る」と理解してもよいでしょう。
たとえば、寒い日にスポーツをして毛穴が開き汗をかいたあと、保温を忘れると、冷えが体に入り込みやすくなります。また、体力が落ちている時に長湯をすると、風邪をひきやすいと感じる人もいます。湯冷めにも注意しましょう。
風邪のひきはじめには、背中が冷えてブルブル震え、熱が出ることがあります。東洋医学では、背中には膀胱経が走り、このあたりで気(エネルギー)の滞りが起こると背中の冷えとして感じやすい、と説明します。また、気が滞ると“熱”が生じ、頭痛や発熱といった症状につながる、と考えます。
風邪をひいた時に用いられる代表的な漢方薬が桂枝湯です。風邪症状があり、まだ汗が出ていないときに用いられることが多いのが葛根湯です。桂枝(シナモン)や生姜などが基本となり、体を温めると同時に、「発散作用」で寒さを体の外へ追い出す方向に働く、と説明されます。風邪症状は汗がかけるようになると改善に向かう‐そう感じた経験がある方もいるでしょう。たとえば「ぐっしょり寝汗をかいたら、熱が下がって楽になった」という体験です。※西洋医学では、風邪症状は主としてウイルス感染により引き起こされる、と考えられています。
東洋医学の視点から風邪の捉え方が分かると、漢方薬を使わずに風邪を整える方法にも気づくことができます。東洋医学では、背中を走る膀胱経の気(エネルギー)が弱り、体表の防御が落ちることが、風邪の背景にあると説明します。したがって、背中を温めて気(エネルギー)を補い、体表の防御を立て直すことが、対応の基本になります。
桂枝湯を用いるのも一つの方法ですし、漢方薬を使わないなら、背中をストーブで温める、カイロを貼って温める、といった工夫もよいでしょう。シナモン紅茶を飲む、生姜湯を飲むといった方法も、体を内側から温める助けになります。もちろん、横になって体を冷やさないように休むこと、そして胃腸に負担をかけないよう、消化のよいものをとることも心がけてください。
国立病院機構 福岡病院 心療内科 平本 哲哉
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